2008年5月2日

カード冒用事件で判決、家族条項の存在意義は?

長崎のクレジットカードなりすまし事件で、一審判決が出た。

1.名義人の過失の有無

カードの表面に記載されている情報だけで決済できる仕組みでは、カード名義人が第三者の不正使用を防止できないとし、名義人の過失を否定。カード会社側の請求を棄却した。

会社側は控訴を検討中。この判決が契機となり、より慎重な仕組み(暗証番号とのコンビネーション等)が導入される可能性がある。(下掲の記事のなかでも、日本クレジット産業協会という業界団体がその旨を指摘している。)

不正使用した人は、赤の他人ではなく、名義人の息子(当時19歳)。同居していれば、例えば、風呂に入っているときに財布の中のカードをこっそり盗み見られてしまうことはありうる。それを一々金庫に入れて管理するなどは、日常の感覚からして現実的でない。

だから、この程度のことで過失を認めなかった判断に、私は賛同できる。



2.カード会社の填補責任の有無

ふつうクレジットカードの約款では、次の内容が定められている。

(1)まず、カードの管理についてカード名義人に対し、善管注意義務を負わせている。
(2)カード名義人に帰責事由がある場合(例えば、紛失に基づく不正使用等)は、名義人が支払義務を負う。
(3)ただし、名義人に故意または重過失がない場合は、カード会社が代わって填補する形になっている。

今回の事件では、さらに、
(4)会員の家族による不正使用の場合は、カード会社は損害補填しない。
という内容の条項が存在していた。

そして、今回の不正使用をしたのは、名義人の息子であった。

そこで、カード会社はこの条項を根拠に、カード会社の填補責任を否定する主張をしていたのである。

これに対し、名義人側は、家族の不正使用の場合も名義人に重過失がなければその条項の適用はない、という反論をしていた。

一審判決は、名義人側のこの主張を認め、管理に重過失がないことから、結局、カード会社の填補責任を認めたようだ。

しかし、この判決の考え方では、なぜ(4)の条項が定められているのか説明が難しいのではないだろうか? 重過失があれば、(2)の原則どおりに名義人が支払義務を負うことになる。重過失がなければ、(3)で処理される。(4)の出番がなくなる。

理屈の面から見れば、カード会社の主張(と私が推測する説明)のほうがかえって説得力がある。(4)を(3)の特則と見れば、重過失がなくても、家族の不正使用の場合は、(4)が効いてカード会社の填補責任が否定される、という説明である。これなら(4)の存在意義がある。

ただ、そうすると、今回の不正使用の300万円を名義人である父親が背負うことになる。父親は19歳(脱線しますが、18歳から成人にしようという議論もありますね)の息子に損害賠償することも可能でしょうが、ふつうの親子間ではそんなことしないでしょうし。となると、どら息子のせいで父親が平均年収の半分以上を失うわけです。かわいそう。

これに比較すると、カード会社にとっての300万円は安い授業料程度かもしれない。他方、金銭的な圧力となってカード会社が対策が取るようになれは、なりすまし事件の発生が減少することを期待できる。

カード会社に負わせるほうが落ち着きがよさそう、という基本的な性質は、類似の事件一般に見られる傾向だろう。そこで、今回の裁判所は、理屈の面をやや後退させて、上に述べた判決の考え方を取ったものと考えている。控訴審や今後の類似事件で、同様の判断が維持されるかに注目。

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カード番号だけでネット決済「不正防げぬ」 地裁判決
http://www.asahi.com/national/update/0502/SEB200805020006.html

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